【短評】2017年の展望

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<アメリカ>

1月にアメリカでトランプ政権が誕生する。これがまず大きな動き。
ただし、TPP離脱など一部を除き性急な動きはしないであろうと楽観的観測をしている。

メキシコの壁や違法入国者の退去など、非常に大きく即時実現可能性の低い公約を掲げることによって、ある意味の時間稼ぎを行うことができることまでは計算に入れているであろう。
さらに政権内に現実的なブレーンも共和党から多数入るであろうことは容易に推測できるのである。
トランプの反グローバル的な言い分に関しても少し違った角度から推測することもできる。

アメリカは世界最大の内需国であり、一部分野の企業を除けば輸出依存の必要がない。
もちろん世界のグローバライズを推進してきた中心はアメリカ(アメリカナイゼーション)ではあるものの、そもそも国家全体としてみた場合資源の面ですら孤立しても維持可能という恵まれた国土を持っているのである。(もちろんアメリカは輸入偏重国家であり、それによるコストプッシュ型のインフレの恐れはある)

軍事的には未知数の部分が多いが、基本的には大きな変化はないのではないかと考える。
どちらかというと、陸上兵力を削減し海空の戦力を向上させオフショアでの戦闘を中心とする。これはポピュリスト、とは言いたくないが、組織ではなく「国民」の支持を受けて誕生する政権であるからしてそのような方向になることは必定。もちろん過去には厭戦気分のアメリカを無理やり日本との戦争に突入させた例もあるので確実にとは言えないのであるが。
これの根拠の一つとしては、NATOへの批判的発言が挙げられる。中東派遣の例など一部を除き陸空戦力がヨーロッパ諸国では中心である。そもそも海洋国家が少ないのである。これらから、海上戦力を中心とすると第7艦隊を含む海軍力に関しては削減する方向には舵を切らないであろうと私は推測する。
F35凍結の発言もあるが、現実的には無理であろう。投じた予算、関わった国家数が多すぎる。もちろん開発コストが膨大に膨れ上がったことに対する批判は正しい。しかしながらF15、F/A18などの改修を行ってもすでに製造ラインが閉鎖されている中、根本的な若返りを行うことはできず、老朽化した機体で上記の通り国民である兵士に任務を付与することに抵抗感があるはずだ。

 

<アジア情勢>

2016年末、すでに中国を中心とする問題が発生しており、年が変わったのちも小規模な軍事的緊張は続いていると考えてよい。さらに進行形で韓国でも政治混乱が発生している。

中国経済から。
短期的に見ると、資本流出と共産党政府との戦いが重要な視点であると考える。
脱法的なビットコインによる国外への資本逃避を目的として、国内富裕層の大量資金投入によるレートの暴騰が年末年始に見られた。その後すぐに政府からの締め付けもあり暴落。
私自身は好きではない(通貨の定義に合致せず、古来の金属主義でもその後の政府による信任でもなく安定性を見出せない)制度、商品であるが、具体的な中国富裕層の国外への資金移動の方法が一般のニュースに出てきたことに注目したのである。
地下銀行などにより国外に資金を持ち出し、幹部の家族は国外へ逃れ、このような事態は散々報道されてはきているものの、日本国内においても話題となったビットコインがその方法として具体的に出てきたことが一般層への関心を集められる可能性に期待している。

軍事的台頭について
専門家によっても様々な意見があるが、中国は世界的覇権を目指すのではなくRegional hegemony 地域的覇権を目指すものであるとの見方が一般的かつ正しい。
昨年も南シナ海を中心に、日本国内においても東シナ海での問題や「サンゴ礁事件」など多数の緊張を煽ってきた。
これも全く独自性のない話であるが、アメリカの政権移行期間に何らかの行動を起こすのではないか。いや、新政権の出方がわかるまでは何もしないのでは、などの意見がある。
人民解放軍の戦力については一旦他に譲るとして、海上警察部隊の増強は専門誌を見るまでもなく地上波のニュース番組ですら報道されている。
毎年「今年は尖閣諸島に何らかの形で手を出してくるのでは」と言われ続けているが、少なくとも回数、質ともに拡大していることは間違いはない。*1*2
経済中心で政権運営を行っている中国で、民衆の不満をそらすための軍事行動は一般的手段であり、直接的な軍事行動はしばらく先であると考えても、その下地として「民間人」と警察組織による行動のエスカレーションは確実に行われ、その後ある閾値を超えた際に軍事組織の行動となるであろう。

*1 海上保安庁 「平成 28 年8月上旬の中国公船及び中国漁船の活動状況について」
*2 海上保安庁 「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」

<ヨーロッパ>

BREXITに寄って、EUのほころびが見えたわけだが、EUの盟主であるドイツの足元がぐらついている。
専門家の間でも意見は分かれていて、Brexit以降むしろEUの結束が高まったとする。一方、EUはすでに二つに分断されているという説がある。*3
イスラームの考え方に詳しくないこともあるが、まずはメルケル独首相の失策から始まる。
無制限の難民(実態は移民か)受け入れを行う宣言をしたことにより、シェンゲン協定によってEU各国が同様に大量の難民による問題が発生したことは誰もが理解している。
これに関してはそれぞれの主義主張があるのであえて私見は述べないが、あまりに異質な文化の共生がヨーロッパ人の想像をはるかに上回る困難さを持っていた。
歴史的な部分に蛇足的に触れるが、ユーロを作ったのは独マルクの強さを封じるという周辺各国の思惑と、独の通貨安政策を希望する(独の輸出依存度を参照*4)それぞれの思惑が一致した結果である。通貨圏とヨーロッパ共同体は別物であるが、同様の背景を持つことは間違いない。
経済的な結びつきを重視して作られた枠組みではあるが、様々な問題が表面化してきているのである。
上記で書いた通り、人の移動の自由が最大の問題である。
言語は違うものの、(一応は)同じキリスト教圏であり、共通の感覚を少なからず持っているものである。
そこに「難民」としてイスラム教圏から大量の人間が押し寄せたのである。
本来的には移動先でのコミュニティーの文化・風習を優先し溶け込むようにすべきであると(押し付けがましく)私は考えるのだが、実際はそうはならなかったようだ。
集団は固まり始め、本来そこに住んでいた人間を寄せ付けない新たな「コミュニティー」を作り始めたのである。
良いこととは思わないが、これらが完全に混じり合わなければ大きな問題が発生すること(よりマクロ的規模での問題は別として)は少なかったと考えらえる。
しかしながら「新住人」は移動先の国家やその下部である公共団体に対して要求を突きつけるようになる。
これらにより「民族」対立が生まれ、反移民の政策を掲げる政党などが躍進することになる。

予測としては、ドイツがこのまま強硬に「穏健」政策をとり続けることで、より独立志向の強い政党がヨーロッパ各国で大きな勢力となる、場合によっては政権を握ることも小さい可能性ではないと思われる。

一つ理解できないことがある。
イスラム過激派の犯行と言われるが、自分たちが移動してきた先でテロ活動を行えば、より自身らの立場が急激に悪くなってしまうことを理解も考えもしないのだろうか。
ISにしてもその点を考えるとすでに無秩序化しており、彼らにとって正当なことも思考することができなくなっているとも推察される。
自称ではあるが国家を名乗ろうとしていた組織は完全崩壊が近いのであろう。

*3 Foreign Affairs The European Disunion How the Continent Lost 
Its Way
*4 総務省統計局 世界の統計2016 P1164

短文、備忘録的ではあるが、2017年にどのように動くかの観測を記した

 

 

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